はじめに
粉瘤は誰にでもできる可能性がある比較的よく見られる皮膚疾患であり、決して珍しいものではありません。それほど粉瘤が大きくない場合や、化膿や炎症、痛みを伴っておらず特に自分でも気にならないという場合には、何もせず放置しているという方もいらっしゃいます。
しかし、粉瘤がなんらかの理由で化膿したり炎症を起こしている場合には、かなりの痛みを伴うほか、跡が残ってしまうこともあります。
では、化膿している粉瘤を手術や切開ではなく、薬で治すことはできるのでしょうか。
化膿した粉瘤を薬で治すことはできるのか?
全身どこにでもできる可能性がある粉瘤。粉瘤の大きさは数ミリ程度から、なかには10センチを超えてしまうものまであり、あまり目立たず自覚症状がない場合には、病院にも行かず放置しているという方も見受けられます。
ただし、よく知られていることですが、粉瘤は一度できてしまうと時間の経過とともに消えてなくなるということはまずありません。粉瘤ができるのは、本来肌のターンオーバーに伴って剥がれ落ちるはずだった角質や皮脂が毛穴に取り込まれてしまって、袋状のものを形成してしまうためです。その袋状のものの中には、当然、角質や皮脂などの肌の老廃物が入っているわけですが、外に排出されることがないだけに、粉瘤はどんどん大きくなっていってしまいます。
シコリができているだけで特に痛みや赤みがない場合はまだいいのですが、粉瘤は大きくなるにつれて、外部からちょっとした圧がかかっただけで破裂しやすくなっていきます。粉瘤が破裂してしまうと、袋状の部分に溜まっていた老廃物を含む内容物が皮膚に押し込められてしまうため、化膿したり炎症が起きたりします。
化膿していたり炎症を起こしていたりする粉瘤は、本来であればすぐにでも医療機関を受診して、切開などの処置を受ける必要がありますが、できた場所や跡が残ることを恐れて躊躇している方も見受けられます。
手術跡や切開跡を残したくないと思い、薬で何とかできないかと考える方もいますが、残念ながら、化膿したり炎症を起こしてしまった粉瘤を薬で治すことはできません。
粉瘤を根本的に治せる薬はない
粉瘤が化膿したり炎症を起こして腫れあがっている場合には、激しい痛みを伴います。
そのような場合には直ちに医療機関を受診して、切開で粉瘤に詰まっている膿みや内容物を取り除かなければなりません。切開をした後は、しばらくの間、化膿や炎症を抑えるために抗菌剤や痛み止めを飲みながら、鎮静するのを待つことになります。
そのような場合に医療機関で使われる薬には、抗菌剤や痛み止めのほかに、抗炎症剤・ステロイドなどがあります。しかしながら、医療機関で薬を使うのは、このように化膿していたり炎症を起こしてしまっている粉瘤の勢いを抑えるためです。まれに、少し様子を見る必要があると医師が判断した場合には、補助的な意味で一時的に薬を用いることもありますが、粉瘤自体を根本的に治せる薬はまだ存在しません。
今までは粉瘤が化膿したり炎症を起こしてしまう原因は、なんらかの衝撃で破裂した内容物が細菌感染を起こすためと考えられてきました。しかし最近の研究では、その原因は細菌感染ではなく、粉瘤が破裂した際に出た内容物が、皮膚の下に入り込んでしまうことであるともいわれています。そのような背景もあって、粉瘤が化膿したり炎症を起こしている場合には、抗炎症剤などの投与もあまり意味がないという医師の意見も見られます。(もちろん、中には細菌感染が原因の場合もあるので、医師の指示に従うことが大切です)
「たこの吸出し」を粉瘤に使うのは危険!
粉瘤についてネット検索していると、頻繁に「たこの吸出し」というワードにヒットすることをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この「たこの吸出し」とは、大正時代に発売されたロングセラーの家庭薬のことで、当時の女性の「はれものを切開せずに治したい」という声に応えるために開発された薬です。硫酸銅・サリチル酸などの有効成分が含まれているため、肌の表面を柔らかくして、はれものの膿みを出すための口を開く効果があるとされています。
粉瘤もはれものの一種なので、そこから「たこの吸出し」は粉瘤にも効果的という噂が立ったのかもしれませんが、実際のところ、これはおすすめできない治療法です。ネット上には「たこの吸出し」を粉瘤の上に塗っておいたら、その部分が「爆発」したという口コミも見かけますが、これは皮膚に大きな穴が開き、中の内容物が飛び出したということでしょう。
たしかに医療機関での切開と同じような原理ではありますが、完全とは言えない衛生状態の中、素人判断でそのような自己治療をすると、逆に化膿してしまったり、場合によっては消えない跡が残ってしまうこともあるので非常に危険です。
これと同じような原理ですが、いくら粉瘤が気になるからといっても、自分の指で無理矢理内容物を絞り出すようなことも、化膿や炎症を引き起こすことがあるので、注意するようにしてください。
きちんと粉瘤を治せるのは手術だけ
ここまでご説明してきたように、化膿している・していないにかかわらず、薬だけで粉瘤を治すことはできません。
医療機関では「薬で炎症を抑える」あるいは「一時的な保存的治療のために薬を使用する」ことはありますが、粉瘤自体を治療するための積極的治療に用いられるほど有効な薬は現時点ではありません。
手術や切開をすると跡が残ってしまうのではないか、あるいは大掛かりなことは避けたいといった思いから、効果がはっきりわからない家庭薬を試してみたり、飲み薬などで治したいと考える気持ちもわかります。しかし、このような治療法で必ず治癒するという確証はなく、場合によってはひどく化膿してしまう可能性もあるため、とても危険といえます。また、「炎症を抑える」ためによく使われる薬の中には、諸刃の剣のような、効果はあるけれど副作用も強いことで知られるステロイドも含まれています。
粉瘤をきちんと本格的に治したい場合には、薬や自己治療に頼るのではなく、医療機関で手術を受けるのがベストです。多くの方が気にする手術跡も、最近の医療技術の進化によって、肌へのダメージを最小限で済ますことができる「くり抜き法」なども開発されてきています。また皮膚科で治療する場合には健康保険適用になる場合が多いため、治療費用が抑えられるほか、確実に治る確率も高くなります
まとめ
粉瘤が化膿したり炎症を起こしたりしている場合は、患部が大きく腫れあがり、強い痛みを伴うことが多いため、とてもつらいものです。化膿してしまった粉瘤は、できるだけ早く医療機関を受診して切開を受ける必要があります。けれども粉瘤があまり人に見せたくない部分にできてしまった場合などには、医療機関を受診せずに何とか自分で治そうとする方もいらっしゃるでしょう。
しかし化膿している粉瘤は、もう自分自身の手ではどうにもならず、治す薬もありません。
もし粉瘤が化膿してしまった場合は、まず何よりも早く医療機関を受診することを第一に考えるようにしてください。