はじめに
粉瘤という言葉に馴染みはなくても、脂肪のかたまりやにきびならご存知なのではないでしょうか。いずれも皮膚に球状のしこりのようなものができる皮膚の病気です。これらは似てはいても、まったく異なる性質、原因の病気です。
粉瘤に限ったことではありませんが、症状が似ているからといって素人診断で病名を決めつけるのは大変危険な行為です。にきびは市販のにきび治療薬を使用して安静にしておけば、やがて枯れてしまいますが、粉瘤はそうはいきません。
粉瘤とはどのようなものなのか、どのような種類(パターン)があるのかを知り、合わせてその治療法も紹介します。
粉瘤の原因とその症状
人間の体は皮膚に覆われています。皮膚の一番上の部分を表皮といいます。表皮にはたくさんの毛穴がありますが、その毛穴の上方部分の皮膚が表皮内部にめくれてしまい、袋状の構造物を作ってしまうことがあります。これが、粉瘤の第一段階です。
皮膚表面からは、皮脂や古くなった角質がはがれていきます。普通それらは垢となって入浴時に流れていってしまいます。しかし、袋状になった皮膚は表皮の内側にあるため、汚れが外に出ていくことができません。その結果、袋の中に古い皮脂や角質がどんどんたまってしまい、球状のしこりとなります。これが粉瘤の成長過程です。
身体の表面にはにきびや脂肪のかたまりなども含めて、様々な異物ができることがあります。見た目に区別がつきにくい症状もありますが、その原因や内部構造を比べることで、まったく異なる病気であることも少なくありません。病気が異なれば、治療方法も変わってきます。
粉瘤は放っておくと、どんどん大きくなります。また、雑菌に感染し化膿してしまうこともあります。そうなってくると治療の難易度もあがり、治療費も高くなってしまいます。
粉瘤かどうかわからなくても、気になる異物が皮膚にできたら早めに診療を受けた方がよいでしょう。
粉瘤のできやすい場所と粉瘤の種類
粉瘤は、毛穴の上方部分の皮膚がめくり込み、袋状になったものです。従って、粉瘤ができやすい場所は、体毛が生えている場所です。顔、背中、首、耳の後によくできるといわれていますが、実際は身体中どこにでも、粉瘤ができる可能性があります。特殊なケースですが、体毛のない足の裏や手のひらにできることもあります。
それなら体毛の多い場所には、特殊な粉瘤ができそうな気もしてきます。外毛根鞘性嚢腫という頭によくできる嚢腫がありますが、これも粉瘤の一種です。通常の粉瘤よりも硬いことがあります。
また、首や腋、腕などにできることがあるのが、多発性毛包嚢腫という粉瘤の種類です。文字通り、粉瘤が近い場所に多発し、多い場合は20〜30個もできることがあります。
一方で、粉瘤の一種かなと、勘違いしやすい別の病気もあります。粉瘤は後天性のものですが、皮様嚢腫や側頸嚢腫といった生まれつきの腫瘍もあります。粉瘤に比べて奥深い箇所まで進んでいるので、取り除くのは簡単ではありません。
それぞれ場所や感触に違いはありますが、それらを正確に区別するのは素人では難しいでしょう。専門医では超音波診断を使い、腫瘍の深さ、大きさ、化膿の有無などを確認します。その結果、粉瘤なのか別物なのかを判断し、治療方針を検討します。
適切な粉瘤の治療方法
粉瘤は自然治癒することはありません。放置しておくとどんどん大きくなります。粉瘤を治療するには、手術を行って粉瘤を取り除くしか方法はありません。手術と聞くと、たいていの方は不安にかられてしまいます。そんなに経験するものではありませんし、失敗したらどうなるのだろうなどと考えてしまうのも無理のないことです。
粉瘤の手術そのものは、特に難易度の高い手術ではありません。局所麻酔を行うため、数本の注射を打ちますが、それが予防接種程度の痛みを伴います。痛いのはそのときくらいで、粉瘤の大きさにもよりますが、数十分から1時間程度で手術は終了します。
入院の必要もなく、その日に帰れるので日常生活に影響を及ぼすこともほとんどありません。
手術の内容は、皮膚の中にできた袋ごと摘出します。粉瘤よりも大きめに表面の皮膚ごと紡錘型に切り取って、傷口を縫合します。粉瘤が小さければ手術痕も小さくなりますが、大きくなるとそれだけ手術痕も大きくなります。
手術痕は場所や性別に関わらず、誰しも残したくないものです。超音波診断で、粉瘤の大きさを事前に把握することで、傷口を最小限に留めることができます。医師もできるだけ痕が残らないように丁寧に処置を行いますが、それでもやむを得ないケースもあります。術前にしっかりと説明を受け、納得してから手術に臨むことが大切です。
また、粉瘤が化膿を伴っている場合は、切開して膿を取り除き、炎症が治まるのを待ちます。その後改めて粉瘤の除去手術を行うことになるので、治療期間が長くなってしまいます。
外毛根鞘性嚢腫、多発性毛包嚢腫の治療法
粉瘤の種類として、外毛根鞘性嚢腫という頭にできるものと多発性毛包嚢腫という腋などにできるものがあることを紹介しました。できた場所や数が特殊なだけで、1つ1つの粉瘤の構造は通常のものと大きな違いはありません。従って、治療も基本的には皮膚を切り粉瘤を袋ごと摘出、ということになります。
外毛根鞘性嚢腫は頭にできるので、頭髪がじゃまになり、粉瘤の状態の診察や手術が困難です。従って、治療のために粉瘤周辺の頭髪を剃る必要が出てきます。手術痕は頭髪が伸びてしまえばわかりにくくなりますが、手術前後の頭髪を剃った状態は大きなストレスになります。粉瘤が小さければ、剃る範囲も小さくてすむので、早期治療が重要なポイントになります。
多発性毛包嚢腫は、その数が問題になります。大きく目立つもの、小さくてわかりにくいものなど多くの粉瘤ができているので、それらを1つ残らず取り除く必要があります。手術の時間も長くなる可能性があります。多発性毛包嚢腫の場合、放置しておくと1つ1つの粉瘤が成長するだけでなく、数も増えてくる可能性があります。手術で多くの場所にメスを入れるのは、身体的にも(金銭的にも)負担が増えるので、こちらもやはり早期治療が重要なポイントです。
まとめ
一般的な粉瘤と、特殊な粉瘤の症例と治療法について紹介しました。粉瘤の治療のポイントは、袋ごと腫瘍を取り除くことです。袋が残ってしまうと再発してしまうので、とにかく袋を残さないことが重要なのです。
粉瘤が炎症を繰り返していたり、化膿していたりすると、きれいに袋を摘出することが難しくなります。皮膚にしこりやにきびなどができると、無意識に触れてしまいがちですが、余計な刺激を与えることが炎症を引き起こす原因にもなります。
繰り返しになりますが、何かできてる、と思ったら早期診療が適切な治療の重要な第一歩になります。