はじめに
アテロームや表皮嚢腫とも呼ばれる粉瘤(ふんりゅう)は、皮脂や角質などがたまってできる良性の皮膚腫瘍の一種です。粉瘤は身体のどこにでもできる可能性がありますが、耳たぶにできやすいといわれています。粉瘤はなぜ耳たぶにできやすいのでしょうか。また、粉瘤ができないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。
この記事では、粉瘤が耳たぶにできる原因と、予防法について解説していきます。また、もしできてしまった場合の対処法についても解説しましょう。
耳たぶや頬、背中などにできやすい粉瘤
良性の皮膚腫瘍の一種である粉瘤は、身体のどこにでもできる可能性があるのですが、耳たぶや頬などの顔回り、背中などにできやすいといわれています。
そもそも粉瘤とは、嚢腫(のうしゅ)といわれる袋状の構造物が何らかの原因で皮膚の内側にでき、その袋の中に皮脂や角質がたまって徐々に大きくなっていく病気です。袋の中にたまった角質や皮脂などは、通常は自力で外に出ることができないため、最初は数ミリのしこりだったものがどんどん大きくなり、野球ボールほどの大きさまで膨らんで日常生活に支障をきたすようになるケースもあります。
病気とはいっても、粉瘤は良性腫瘍ですので「治療をしなければ命にかかわるような症状が出る」ということはありません。しかし、放置することによって赤く大きく腫れて痛みや熱をともなう炎症性粉瘤になってしまったり、何らかの衝撃が加わることで開口部から不快で強い臭いをともなった内容物が出てきたりすることも。瞼や頬など顔回りにできた場合は、美容の面で気になってしまうという人もいるでしょう。
一見するとおできやニキビなどと区別がつかないため粉瘤だと気づかないこともありますが、治療時の体への負担や炎症を起こしてしまう可能性を考えると、小さいうちに対処しておくほうが良いでしょう。
粉瘤が耳たぶにできる原因と予防法
粉瘤がなぜできてしまうのか気になるところではありますが、その原因のほとんどは解明されていません。手のひらや足の裏などの粉瘤は、けがをきっかけにしてできる場合があることや、粉瘤にはヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス)が関係していること、体質的に粉瘤ができやすい人がいることなどはわかっています。
しかし、決定的な原因はいまだ判明しておらず、耳たぶに粉瘤ができる原因についても詳しいことはわかっていません。そのため、粉瘤をどのように予防したらよいのかについても、効果のあるものが何なのかわかっていないというのが実情です。
おできやニキビなどと同様に、洗顔をしっかりおこなう、ストレスを上手に発散する、適度な運動をする、睡眠時間を確保して規則正しい生活をする、バランスの良い食事をとるなど、生活に気をつかうことで粉瘤が予防できると考えている人もいます。しかし、これらが粉瘤の予防に対して直接的な効果があるかどうかは、解明されていません。
また、以前は炎症性粉瘤が発生するのは細菌が原因だと考えられており、抗生物質などで抑えようとしていました。しかし、炎症性粉瘤の約9割は圧迫によって袋が破裂することが原因であり、抗生物質には効果がないと判断されています。
ふんりゅうを治療するには手術が有効
粉瘤は放置していても命にかかわることはありませんが、治すためには嚢腫ごと取り出す手術が必要になります。耳たぶや背中などの部位にかかわらず局所麻酔で対応でき、小さいものならば簡単な手術で治療することが可能です。粉瘤の手術には以下のものがあります。
・くり抜き法、へそ抜き法
粉瘤の開口部に直径4mmほどのディスポーザブルパンチといわれる円筒状のメスを差し込み、袋状の構造物の一部をくり抜きます。その後、嚢腫にたまった内容物をもみだしつつ、袋自体も取り出していく方法です。傷跡は縫わないことが多く、傷がふさがるまでに2~3週間ほどの時間を要します。くり抜けるほどの小さな粉瘤に提起している方法で、施術時間が短く傷跡も小さくて済みます。しかし、袋を取り残して再発してしまったり、術後に炎症を起こしたりする可能性があります。
・小切開摘出術、小切開圧出後摘出術
小切開摘出術は紡錘形に皮膚を切開し、粉瘤を袋ごと取り出して縫い合わせる手術方法です。小切開圧出後摘出術の場合は、皮膚だけでなく袋も切開して内容物を圧出、中身を小さくしてから袋を取り出して縫い合わせる方法です。傷跡は大きくなりますが、袋の取り残しの可能性が少ないので、再発率も下がります。
粉瘤の大きさや状態によってどちらの手術方法にするのか医師と相談して決めます。いずれにせよ小さいうちに取り除くほうが傷跡は小さく済むでしょう。
粉瘤に似た皮膚腫瘍
耳たぶだけでなく、耳の付近や顔まわり、身体のいたるところにできる粉瘤とよく似た皮膚腫瘍も存在します。その例を挙げていきましょう。
・ニキビ(深在性)
毛穴に皮脂などが詰まって菌が繁殖し炎症を起こしたもの。強い炎症で毛穴が破壊され、皮膚の下に膿がたまったものを深在性のニキビといいます。
・おでき
毛根を含む組織が細菌感染することでできる皮膚腫瘍のひとつ。つぶれて膿が排出されれば自然治癒することがあります。多くの場合は良性です。
・皮様嚢腫
眉毛や上まぶた、頭などによくできる2cmほどの球状の皮膚腫瘍。いつの間にかできている粉瘤と違い、生まれつき存在するもの。骨に癒着していることがあり、粉瘤よりも手術は難しいことが多いです。
・側頸嚢腫、正中頸嚢腫、耳前瘻孔
首の側面にできて頸動脈付近まで入り込んでいる側頸嚢腫、首の中央あたりにできてのどの骨に癒着している正中頸嚢腫、耳の前に小さい穴が開いていて軟骨まで袋状の空洞ができている耳前瘻孔は、どれも生まれつき存在します。
・外歯瘻
下あごによくでき、虫歯や歯周病部分の膿が皮膚から排出されるものです。皮膚の治療よりも先に歯科治療を行うことで、症状が改善されていきます。
・毛巣洞
体毛の濃い男性のお尻によくできるものです。お尻の割れ目付近に小さな穴が開いており、中には毛が入っています。
・石灰化上皮腫(毛母腫)
子どもなど若い人の顔や首、腕などによくできるものです。触った感じは粉瘤よりも硬くゴツゴツしていますが、大きさは粉瘤と同じくらいで、良性腫瘍の腫瘍です。
自然治癒するものもありますが、気になる場合は医療機関を受診することをおすすめします。
まとめ
耳たぶや頬、背中などにできやすいといわれる粉瘤ですが、粉瘤ができる原因はほとんど解明されていないのが現状です。そのため、有効な予防手段もわかっていないというのが現状です。粉瘤は良性の皮膚腫瘍ですので放置していても命にかかわるような症状が出ることはありませんが、野球ボール大まで大きくなることがあったり炎症を起こして痛みをともなったりすることもあります。自然治癒することがありませんので、できれば小さいうちに取り除いておくほうが良いでしょう。